タコとイカの小説

 

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タコとイカの話。

 

タコとイカの違い。そんなことはど素人にはわかるまい。私もわからない。
ぶっちゃけ食うのが上手ければいいんだと思っていた。つい昨日までは。

 

話は変わるが一昨日、私は先日無職になった。
完全なブロック企業、体を壊してからの仕組まれた自主退社だった。もう死んでやる!そんな心境だった。
いっそ人を殺してやろう、と思ったが、そんなことしたら人に嫌われるし大好きな人に蔑む目で見られる。大好きな人が3次元でなくてもそれだけは嫌だ。
そもそも握力5の私にナイフをもつことができるだろうか。人に襲いかかり返り討ちにあうなんてかっこ悪いのは嫌だ。合法的に殺せる相手。テレビ画面に映ったタコとイカが目障りだ。
こいつらにしよう。私はそう決めた。

 

魚屋から生きたイカとタコを買い付けその場で締めてもらい、我が家のシンクにぶち込む。
サクッとやってしまえと動かなくなったイカタコを同時に突き刺す。
が、両者ウネウネ動き出した。
イカめ!タコめ!こいつら生きていたのである。どびっくりである。

格闘しているうち、差に愕然とした。

私の腕は2本、タコは10本、イカは10本。
生まれながらにして、圧倒的な差。

 

タコがお得意の炭を噴射。
粘り気のないさらっとしたもののようだ。
続いてイカも炭を噴射してきた。
こちらはドロッと粘り気がある。
私は色黒だが松崎しげるにする気かこいつら。
瞬間私はサメの気持ちにシンクロした。
ジョーズは何度この禍々しい黒煙を浴びたんだ。

 

しかし暴れまわる彼らは、何のために生きたのだろうう。
私はピカソの絵画ばりに真っ黒になる我が家の台所の中、彼らと私を重ねた。
必死に生きた上、弱者となり救済されない。
私の涙と彼らの炭と私の鼻水がブレンドし終える頃、ついに奴らは動きをとめた。

 

食べるうえで、何が危険か見ておくことにした。
タコのくせにストレスを溜めると自分の腕を食うとか、まるで私のリスカ(リストカット)のようだ。そもそもタコは頭がいいという事実も今さっき知った。道具を使ったり、餌入り容器を覚えて自分であけるなんてお茶の子さいさいらしい。道順を覚えるなんて、全人類ポンコツ代表の私としては実に羨ましい能力である。
イカの鏡を見て自分を認識する能力を用しているというのも予想外の事実だ。鏡像認知というらしい。イルカや人など限定的な種しかなせない技だそうだ。また、イカのオスの精子は食うと人間の臓器内で暴れまわるとある。ドMじゃない限りこれは辛い。

あの姿からは想像できないほど知的な両者である。

またイカが足10本、タコが足8本なんだと思っていたがよく調べたら、イカの10本は足が8本、触腕が2本なんだそうだ。

そういえば松崎しげるばりになるほど墨をぶっかけられたわけだがそもそも違いはあったんだろうか。両者の性質が違うということは、役割が違うのではないか?と私の勘が働く。昔よく読んでいた図鑑を物色するも自分の部屋は魔窟と化しているので、適格最速な判断でグーグル先生に頼ることにする。

やはり、両者ともに外敵からの防衛作戦に違いはない。

しかし、タコが煙幕状の墨の使い方で相手からの視界くらましに使うのに対して、イカは粘り気のある墨を水中で吐きだし、自分(イカ自身)と敵に勘違いさせ、逃げる、という仕様になっているらしい。
また、イカ・タコの墨で料理でイカ墨が多いのも気になり、追加で調べてみた。
元々タコ墨はイカ墨より量が少ないうえに、輸入のものが多いタコは内臓があらかじめ除去されているものが多い、墨袋が小さいなどで水揚げ時に中身空っぽ、タコ墨のある場所が取り出しにくい位置にあったり・・・・と複数の理由でイカ墨よりずっと貴重なものになるようだ。
比べてイカ墨にはガンに効く成分があるらしい。ムコ多糖という成分らしく、関節炎に効き目があり、さらには痛みを和らげる効果もあるそうだ。思わず、私の腰痛も治ってほしい、と愛しいあの子がごとくイカを熱く見つめてしまった。

ついこの間もイカスミパスタを食ったというのにかれらのことを一ミリもしらなかったのだと気付き、私も社会に搾取されるまえに、誰かに自分のことを知ってほしいと切に願った。
またも、涙腺崩壊しそうになり、思わず愛犬を呼び寄せたが「いやおまえなにやってんの?馬鹿なの?」という顔をして微動だせずにこちらを見ている。こんなんじゃ悲しみに震える西野カナになってしまう。

「お前らの分まで生きる!」私は盛り付けたタコとイカをほうばった。
墨まみれの家に帰ってきた母親の発した「なんやこれぇえぇ!」とかいう叫び声を全スルーしながら食うタコとイカは美味かった。

 

~Fin~

 

思い付きで描いたら楽しくなっちゃった!!!(テヘペロ☆彡